古典統計力学は必要なの? 分子が運動するイメージが邪魔になる

分子

分子がダイナミックに動いているイメージが物理理解の邪魔になるのでは? という考えに捉われています。

気体分子運動論とそこから生まれた古典統計力学ですね。

そもそも古典統計力学って必要なの? そう思えて仕方ないのです。

古典統計力学とは?

19世紀に入り、熱や温度、物質の変化などを体系的に説明する熱力学た誕生しました。

それと並行した形で、熱力学を多くの分子の統計的な挙動で説明しようとする(古典)統計力学も産まれます。

古典力学の目的と結果

古典統計力学が目指していたのは、熱力学を分子の運動として力学の法則で説明することでした。

結果的に、力学の法則だけでは熱力学を導くことはできず色々な仮定が必要で、実際の実験結果とも齟齬があるような理論となってしまいました。

古典統計力学の意義

古典統計力学を否定するつもりはありません。

ボルツマンの先見的な研究によって、それまでに知られていなかった現象や物理量の関係式など多くの知見をもたらした素晴らしい学問分野です。

ただ「古典」とついていることからもわかるように、不十分な点が多く残されていました。

そこから量子力学が誕生することになります。

気体分子運動論

数多くの分子が運動しているとして理想気体の圧力や温度を表した気体分子運動論は、イメージも湧きやすく非常に面白い分野です。

とは言っても、これも古典の範囲です。

このイメージが強すぎるため、どうしても誤解が生まれることになります。

熱力学の統計力学の関係

熱力学は、物質を分子というミクロなものの集まりとしてみるのではなく、マクロな状態として扱うものです。

できあがった理論体系には矛盾もなく、私たちの身の回りのごく普通の現象から複雑な現象まで幅広く適用できて、熱力学に反する現象は全く知られていません。

応用範囲が広く、検証結果も多いので、物理理論の中でも最も信頼できる理論とさえ言われています。

分子運動との矛盾

熱力学の理論には分子というものは全くでてきません。

「物質は分子でできている」

という仮定は熱力学の体系の中には存在しないのです。

問題なのは、熱力学の理論体系自体は矛盾がないのですが、「物質は分子でできている」という仮定を付け加えると、不思議な結果が出てくるのです。

「ギブズのパラドックス」などは、その典型です。

それ以外に「分子は区別できない」とか、通常の確率論が使えないとか、わけのわからない結果が出てくるのです。

量子力学の誕生

そして量子力学が誕生します。

分子を量子力学で捉えなおすことで、古典統計力学の矛盾は消え、実験と合わなかった部分も合うようになります。

量子統計力学の誕生です。

分子という微少なものを扱う場合は、量子力学を使わないとだめなのです。

熱力学と量子力学

「熱力学では説明できなかったことが、量子力学によって説明できるようになった」

そういう記述をみかけることがあります。

これは間違いです。

熱力学の体系は何も変わっていません。

熱力学を「分子の運動」で捉えなおすときに説明できなかったことが量子力学で説明できるようになったのです。

言ってみれば、古典統計力学で説明できなかったことが量子理統計力学で説明できるようになったのです。

熱力学と量子力学の共通点

熱力学と量子力学には共通点が沢山あります。

どちらも「状態」を扱います。

「体積Vの中にNの気体が入っている状態」熱力学でも量子力学でもそれを扱います。

量子力学になると、気体分子がダイナミックに動き回るというイメージは消えてしまいます。

出てくるのは体積Vの中に閉じ込められた分子の波動方程式で、分子自体が実際に動き回っているとか、分子がどこにいるとか、そんなことは関係なくなってしまうのです。

熱力学と量子力学には共通点が多く、その間はスムーズに移行できます。

古典統計力学の必要性

スムーズにいかないのは、その間に古典統計力学が挟まるからです。

古典統計力学は理論としては面白い分野です。

でも、どこかご都合主義的な感じがするのも事実です(古典統計力学で色んな現象を説明しようとしすぎてご都合主義に走った教科書のせいかも)。

歴史的にも古典統計力学の果たした役割は大きいのも事実です。

でも、今の時点で古典統計力学を習う必要はあるのでしょうか?

熱力学からいきなり量子統計力学の方が、わかりやすくて誤解も少ない気がします。

なぜこういうことを考えたのか

ちなみに私は化学系の人間です。

化学で扱う現象を物理理論で説明する「物理化学」という分野があります。

私が使った物理化学の教科書には古典統計力学は出てきません(それとは別に統計力学の授業はありましたが)。

熱力学があって、量子力学があって、その後に量子統計力学が出てきます。

古典統計力学で、化学に応用できるような結果は出てこないからです。

おおざっぱな傾向はわかっても、実際の化学物質の挙動を実用レベルで扱えるケースはほとんどありません。

逆に古典統計力学を間に挟まない分、パラドックスのようなことが出てこないですんなり理解できます。

熱力学を擁護する

最後に熱力学を擁護させてください。

「これは熱力学では説明できず、量子力学の誕生によって説明できるようになった」

色んな場面で出てくる言葉です。

これは間違いです。

熱力学の体系に矛盾はありませんし、熱力学の結果に反する現象は全くありません。

それを分子で説明しようとすると上手く説明ができなくて、それが量子力学で説明できるようになったのです。

どうも古典統計力学は熱力学に含まれると考えている人が多いようです。

熱力学を教えるときに、イメージが湧くように統計力学を交えることが多いことが原因かもしれません。

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